蒼の光 × 紫の翼【完】



「本当に、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

「俺も」

「また倒れないでくださいよ?」

「「……いいからさっさと飯よこせ」」

「は、はいぃぃぃぃ……」




お握りを自分の分だけ取って戻って来たら二人は起きていた。

そして、身体の心配をしていたらお握りを要求され仕方なくわたしの分のお握りを渡す。

……こうなるなら二人の分も取って来るべきだった。

と後悔した。




「……また取りに行って来ます」

「飲み物もくれ」

「……はい」




……なんか、パシられてる。完全にパシられてる。

厨房にお握りを貰いに行ったら案の定、作っているおばちゃんに怪訝な顔をされた。

二人が起きたと伝えると、まあ!と声をあげリリーちゃんを呼んでくれた。

なあに?お母さん、とリリーちゃんが出て来たから、えっ!リリーちゃんのお母さん?とわたしはびっくりした。


……確かに、瞳の色オレンジだ。親子だとは気づかなかった。


いろいろ話は聞きたかったけど、お腹を空かせた大の男が二人も待っているから、リリーちゃんとお握りと飲み物を持って行くことにした。




「それにしても、リリーちゃんのお母さんだとは気づかなかったよ」



大量の食糧を抱えながら歩いている。



「はい、よく言われます。隣に並ぶと親子ってわかるけど、別々だとわからないって」

「そうそう。似ているところもあれば似ていないところもあったな。そう言えば、メイド服じゃないんだね」

「あ、はい。あれでは動きづらいので」




リリーちゃんはメイド服ではなく、動きやすい格好をしている。ズボンを履いているから違和感を感じる。




「あ、着いたよ」

「失礼します」

「……あー、やっとか」

「腹減った……あれだけでは逆効果だった。さらに腹が減った……」

「はいはい、今あげますから」




二人はわたしたちからお握りを奪うようにして両手に掴むと、ガツガツと食べ始めた。



「「……」」




その食べっぷりにわたしたちは唖然。

10個ぐらい持って来たのに、もう無くなってしまった。ベッドの上にはお握りを包んでいた葉っぱが散乱している。

そして、飲み物のお茶も全て飲み干してしまった。




「あー、生き返った」

「力を使うとどうも腹が減る」

「……もう、持って来なくてもいいですか?」

「ああ」




ケヴィさんの言葉に安堵するわたしたち。

もう一回行って来いなんて言われたら、クタクタになってしまうだろう。




「……今の状況は?」




カイルさんが硬い表情できり出した。




「……結界を張るためにみなさん休憩を取っています。城に二重、センタル全体に一重に張るつもりです」

「そうか……俺たちも手伝いたいが、たぶん皆に止められるだろう」

「そうなると思います」

「ええっと……その結界ってなんですか?」

「ケルビンに古くから伝わる術だ。あの異形の者を封印するさいに使用されたらしい」

「その当時は生き物の血液を溶媒にしていたそうだが、力を代用しても使えると判明し、それ以来は血液はやめている」




ケヴィさんが答えて、カイルさんが説明してくれた。

生き物の血液……人間の血液でも効果を発揮したのだろうか。




「地面に紋様を描き、そこに力を凝縮させた雫を落とす。だが、強力なのはいいが、範囲が狭くてな。センタル全体となると、かなりの人数が必要になる」

「……ですから、リチリアの人達にも応援を頼みました」

「……どうだったんだ?」

「了承してくれましたが、ラセス様に申し出をされました」

「……あいつはなんて言ったんだ?」



───もう俺たちを敵と見なさないでくれ。



「ラセスさん……」

「セレス様はそれを快く承諾しました」

「年の行った者が嫌悪感を抱いているのに気づいていたのだろうな。俺たちはなんとも思ってはいないが、まだ根強く敵対心は残っているはずだ」




カイルさんはそう言ってくれたけど、やっぱりこの戦いが終わったら協調性は無くなってしまうのだろうか。

せっかく手を取り合えているというのに。



と、そのとき、耳鳴りに似た音が響いてきた。



「なんですかこの音……」

「結界を張る作業が始まったのだろう。そのせいで大気が震動しているんだ」

「動物たちにも聞こえるのでしょうか……」

「もしかしたら、聴力が優れている動物にとっては苦痛かもしれないな」



ケヴィさんが悲しそうに眉を下げて言った。

……みんな大丈夫だろうか。特に家畜。餌とかはどうしているのだろうか。




「あの、家畜の世話って……」

「ああ、それは地下の一部の連中に任せている。ニックとリックはそちらで奮闘しているだろう」




だからぜんぜん会わなかったんだ。別れた後どうなったのか心配だった。

なるほど、リチリアの兵士がいなくなったから、そちらに人間を派遣することができるようになったのか。




「……おさまったか」

「城の周りも完了したようです。これで、攻めては来られないでしょう」

「……だといいが、問題が片付いたわけではない」

「……あの島のことですよね」

「そうだ。なぜ何も仕掛けて来ないのかが気になる。あの突風を起こし、あそこまで移動したあとは音沙汰もない。まったく次を掴むことができない……」




嵐の前の静けさ……とでも言うのだろうか。

あまりにも静かすぎて逆に不気味だ。




窓から島を覗く。

森も、滝も、あの高くて鋭い建物も……

全てが破壊兵器なのだろうか。

あそこで生活ができているようだから、自給自足の生活をしているはず。

あそこは紫族の命の結晶。

代々護り続けて来たのだろう。昔からあるのだから。




「あの島は破壊兵器なんです」

「……なんだと?」

「寝ている間にフリードって言う神様に会って、壊してほしいとお願いされました」

「神……本当にいたのか」

「自分が造らせたけれど、人間が手を加えてしまったから、この世界を破滅するほどの威力を金揃えた光線を撃てるそうです」

「「「……」」」

「それを打つにはこの指輪が必要らしくて……」




わたしは指輪を外して、手のひらに乗せる。

キラッと光を反射する紫色の宝石。

これは、鍵なんだ。救うこともできれば、破壊することもできる鍵。

これがわたしの手元にある限り、光線は撃てない。

だから、やるべきことはひとつ。



「これを渡さなければ相手は光線を撃てません。だから、あの島を外から壊せば脅威はひとつ減ります」

「……頭が預かっていた指輪か」

「はい。この指輪は光線を撃つときに必要な鍵です。これを撃つのとは反対の方向に鍵穴で回せば島は自爆するそうですが、それはただたんに威力を逆流させただけであって、どちらにしろドカーン、と……」

「「「……(使えなっ!)」」」





うう……そうあからさまに使えないじゃん!みたいな顔をされても……

奪われる心配はないと思うけど、用心しなければならない。どんな手を使うかわからないから。




「なので、外側から攻撃を仕掛けて破壊すればいいんですよ!」

「……あの堅物をか?可能なのか?」

「はい。たぶん……」

「……作戦を練らなければならないな。生憎アルバートはいないからめんどうだな……」

「僕?ここにいるけど」

「わあっ!アルさんいつの間に!」

「え、酷くない?僕ってそんなに影薄いの?二人が起きたって連絡をもらってやって来たのに……」





今まで窓の外に気を取られていてアルさんがやって来てきたことに気づかなかった。

しょぼーんと項垂れているアルさん。




「す、すみません……」

「アルバート、さっさと会議を始める。皆を集めておけ。リチリアの連中もな」

「……りょうかーい……」




アルさんは落ち込みながら出て行った。




「こんなところで寝ている場合ではないな」

「そうだな。俺も会議に出席するのか?」

「当たり前だ。おまえもだぞ」

「え、わたしもですか?」

「おまえがあの島のことについて説明しろ。俺たちは詳しく知らないからな」

「わたしもそんなに詳しいわけじゃ……」

「おまえがいるだけでも場の雰囲気は変わる。おまえに拒否権はない」

「……」




……そんなあ、プレゼンとか嫌いなのに。

でも、役に立ちたいからやるしかないか。





「わたしはルーニーの様子を見てきます」

「ああ、よろしく。ついでに飯でも持って行ってやれ。結界は想像以上に身体に堪えるはずだ」

「はい。失礼します」

「……きっとルーニー君喜びますね。好きな女の子から貰えるなんて」

「……さあ、どうだろうな。リリーが誰を思っているかは本人にしかわからん」





……結ばれるといいな、とわたしは思う。

なんだかんだでお似合いなコンビだと思う。並んでても違和感がないというか、マッチしているというか。


……ルーニー君、ガンバレ!




そんなことを思っているわたしは、ずっと二人に見られていたとは気づかないのであった────







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