蒼の光 × 紫の翼【完】



「……ううっ」



わたしは目を覚ました。天井には電球の明かりがぶら下がっており、その光はまだわたしには眩しい。



「まぶしっ……」



布団を手繰り寄せ光を遮る。



「ほう、目覚めたかの?」



布団に人影が落ちたため、目の下まで布団を下ろす。が、そこで気がついた。眼鏡をしていない!

わたしが左右に頭を振って眼鏡を探していると、誰かが眼鏡をかけてくれた……少しつっかかったけど。



「心配するでない。わししかおらぬよ」

「あの……ここはどこですか?」



さっきのおじいさんの顔が目の前にある。外で見たよりも髪は白く見え、目は黒かった。そして、皺が何本も寄っている。



「小屋の地下の診療室じゃ。まったく、気持ちよく寝おって。心配して損したわ」

「す、すみません……」

「診察の結果は過労と栄養失調じゃ!おぬし、朝飯をまだ摂っておらんかったんじゃな?!」

「すみません……」

「じゃからそういうことは早く申せ!死んでも知らぬぞ!」

「……すみません」



病人にそんなに頭ごなしに説教しなくても……やっぱり最近謝ってばかりだな……



「話したいことが山ほどあるが、まずは腹ごしらえじゃ。これを飲むでの。ほれ、身体を起こせ」



言われたとおり身体をゆっくりと起こし、野菜が入った暖かいスープを受け取った。

スプーンで掬って、溢さないように口に運ぶ。



「……おいしい」



スープが身体に染み込んで、ほぐしていく。



「そうじゃろうそうじゃろう。なんといっても、自家製野菜スープじゃからの。みなの血と汗と涙からできておる」



おじいさんがうんうんと頷きながら説明してくれた。

わたしはスープを最後まで飲みきり、ごちそうさまでした、と言って一息ついた。



「……場所を移すが、歩けるかの?無理ならニックを呼ぶでの」

「だ……いじょうぶです。歩けます」



わたしはベッドから立ち上がって、数歩歩いてみた。少しふらついたが問題ない。



「ついて参れ」



おじいさんはさっさと診療室を出ていってしまった。わたしは小走りで後を追う。

やはり病人の扱いが雑に思えてくる……



おじいさんに追い付いてしばらく歩くと、ひとつの部屋の前で止まった。不思議なことに、誰にも会わなかった。

おじいさんはその部屋のドアを開けると、わたしに入るように促した。



「適当に座れ」



おじいさんはそう言うと、ドアを閉めて低めの椅子に座る。

わたしは同じく低めのベッドに座った。座れるところがそこしかなかったからだ。



「手荒な歓迎ですまぬ。わしはみなからは頭(かしら)と呼ばれておる者じゃ。
アルバート君から話は聞いておる。言伝てもな」



おじいさんが声を抑えて話し始めたため、わたしも自然と声が小さくなる。



「言伝て、ですか?」

「左様。
今日も話の続きをしようと思っていたが、公務が忙しくなったため、急遽庭師として朝から働かせることになった。本当はもう一度顔を会わせたかったが、その分見つかる危険が増すため断念した。話の続きはおじいさんから聞いてほしい。君が聞きたいことも答えてくれる。本当に手荒い見送りですまない……
といった感じじゃ」

「……本当に手荒いです。昨日の夕飯から何も食べていなかったし、雪道を歩かされたし、素直に従っていたけど、内心怒り心頭でした!」

「いっきに元気ようなったのう。それがおぬしの素じゃな?ここでも遠慮せず素を出せ。よいな?遠慮は命とりじゃぞ?」

「わかってます!」



嫌と言うほどわかった!朝食だってたぶんリリーちゃんに言えば出たかもしれない。なんだか急いでいるように見えたから、言い出せずにいたけど。

あと、ルーニー君の歩くスピード!わたしには少し速すぎて疲れてしまった。



わたしはさっきまで脱力感が半端なかったけどこうなったらトコトン質問してやる!と意気込んだ。いつもの調子を取り戻すんだわたし!




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