羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



 彼がやらないのなら、代わりに自分がやってやろう。

 朱尾は血が滴る勢いがましているにも関わらず、人狼の腕を押し戻した。

 その直後だ。



「―――放て‼」



 男の声が轟く。

 漆黒のアスファルトに、蒼白い燐光のヒビが入り、それが人狼に向けて走り抜けた。


 その燐光は人狼の足元まで辿り着くや、その巨体を囲うほどの大円形を地に描く。

円形の中には、破魔の効果がある五芒星かあった。



「怪禁登命時、邪物除退時呪……」


 ぶつ、ぶつ、ぶつ、ぶつ、ぶつ、ぶつ。

 朱尾が耳をこらすと、周辺のあちこちから、男女入り混じった声たちが、聴解不明の言葉を唱えている。

 すると真下で輝く燐光は、徐々に蒼から翠へと変色して行った。


「それから離れて!」


 朱尾の耳に、聞き覚えのある声がした。

 自分に言っているのだろうと思った朱尾は人狼から離れようと身を引くも、手をがっちり掴まれていて逃げられない。


 そこへ、白銀の刃が縦に一閃を描き、人狼の両手首を断ち切った。

 人狼と朱尾の横には、いつのまにか、少年と見まごう少女隊員が、刀を携えていた。

 要請を聞きつけた茨が、人狼の腕を斬ったのである。


「はやく」


 茨は言って、朱尾を促した。




< 191 / 405 >

この作品をシェア

pagetop