羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
2
さわり、と治療室の隅にあるベッドのカーテンが揺れる。
護符の補充をしていた青木は、ふとそのベッドに視線をやる。
開け放たれたそこは、青木の位置からは丸見えであった。
ベッドには誰もいない。
しかし、その脇には人がいた。
青木は息を飲んだ。
朱尾がいた。
いつものタンクトップの上に薄手の上着を着ただけという、非常に寒そうな格好である。
筋肉が張っていて硬そうな腕には、無造作に包帯が巻きつけてある。
「……ち」
ばつが悪そうに舌打ちし、朱尾はベッドに腰をおろした。
「ここ、借りんぞ」
それだけ言うと、あたかも青木との間を隔てるかのように、さっとカーテンを閉めてしまった。
「―――」
青木は跳ね上がった眉を落とし、護符をすぐ隣の棚へとしまう。
「……怪我、治してもらわなかったの?」
問いかけたが、朱尾からの返事はない。
大広間には呪法班員も何人かいて、今回の討伐で負傷した羅刹たちは彼らに治療してもらっているはずである。
5人くらいならば、それはこの治療室で行われるのだが、今回は酒童班と天野田班、そして他の地区の班の3班から負傷者が出ているため、とても入り切らない。
「別にいいだろ」
朱尾はカーテン越しに言った。