羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「どうしたの」
なにか言いたいことでも?と天野田は言いたげである。
「なんとも思わえねのか?
この、千切れた腕の修復の早さに」
酒童は二の腕の袖がない部分を指差す。
天野田はとても聡い男だ。
異様な事柄は、決して“偶然”で片付けたりはしない。
答えを待つ酒童に、天野田はいけしゃあしゃあと腕を組んだまま沈黙している。
「……そんなの、今更なんとも思わないよ」
天野田は言い捨てた。
「君は知らないだろうが、既に拠点の羅刹たちは、君が人外の化け物だってことを知ってる。
なにしろ人狼襲撃事件の直後に、地区長と班長がやってきて、完全に化けた君を回収していったからね」
天野田の言葉から、酒童は班長に足首を掴まれ、囚われの鮫のように引きずられて行く自分の姿を連想する。
「みんな、その姿を目撃していた。
いまじゃ、拠点はその話題で持ちきりだよ。
人狼の件―――人に化ける西洋妖怪がでたっていう話なんか、もうそっちのけだ」
確かに、人に化ける西洋妖怪がいるというのは前代未聞の話だが、妖と人の交雑種がいるという話もまた、前代未聞である。
「……それで、みんなはなんて言ってた?」
酒童はいちばん聞きたくないことを和えて聞いた。
酒童は、自分が半妖であるとも知らずに、人間の顔をして生きてきた。
隊員たちも、酒童を人間だと信じてやまなかったはずだ。
そんな酒童が、化け物であるとわかった時、彼らはどう思うだろう。
危険視したりはしないだろうか?
酒童にはそんな恐怖があった。