羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
1
カーテンの隙間からは、煌々と陽の光が差し込んでくる。
眠っていた鬼門は、昼間の強い日差しを受けた。
三つ編みにされて、ひとつにまとめられていた黒髪は布団の上に広がり、実に艶やかだ。
「……」
目を覚ました鬼門は、ぼんやりと薄暗い部屋の中を見つめていた。
自分の部屋ではない。
地区長―――加持(かじ)の自宅の部屋である。
鬼門は半裸の身体を起こす。
女と見紛う儚げな美貌の鬼門だが、その肉体は嫋やかで引き締まっている。
鬼門は立ち上がろうとするが、下半身は動かなかった。
加持が下半身の上に寝そべっているせいで、身動きが取れないのだ。
「地区長……いや、加持班長。
起きてくれませんか?」
鬼門は眠っている加持に声を掛ける。
しかし、加持は「う、ん」と呻くばかりで、微動だにしない。
「……いつまで私の上にいる気です?
さっさと起きなさい」
鬼門は加持を睨みつける。
するとようやく、加持はのっそりと身を起こしはじめた。
「……今日は珍しく、手でどかさないんだな」
まるで情事後の女に笑いかけるように、加持は普段の冷徹な無表情を、ふっと緩めてみせた。