羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
『……まんまとはめられましたね、加持班長』
鬼門は声を太くした。
『羅刹2人と半妖が1人。
その程度の数ならば、複数の妖で一気に仕留めることができる』
『なにが言いたい?』
『私たちに少人数でくるように要求した理由は、羅刹が酒童嶺子の始末について異議を唱えた時、すぐさま殺せるようにするため。
……そうではありませんか?』
鬼門は妖の集団を疑っている。
加持は何食わぬ顔で『そうかもしれないな』とだけ言った。
『だからといって、お前は、たった1人の羅刹のために、国家最大の“兵力源”に刃向かう気か?』
たった1人の羅刹。
加持は酒童のことをそう称した。
北海道から沖縄まで総じると、羅刹の数は1000を超える。
今や警察よりも数が多い。
そんな中の1人となると、それはとてつもなく微小なものである。
鬼門には、加持が酒童の命を差し出すことを厭わない体勢をとったふうに見えた。
くしゃり、とカラになった酎ハイの缶を握りつぶす鬼門に、加持はもうひとつ、酎ハイの缶を渡してやる。
『なにも酒童嶺子を切り捨てろとまでは言わない。
ただ、妖たちにあまり犯行的な態度を取るなよ』
加持は忠告し、酎ハイを口に含んだ。
『妖たちの協力がなくなれば、数年としないうちに……列島の“日本人”は絶滅するだろうからな』