羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
『酒童嶺子を引き渡せ?』
加持からとある話を聞いた鬼門は、思わず声を高くした。
羅刹の業務を終えてたとき、鬼門は電話で加持の自室に呼ばれた。
時刻はもう午前2時であった。
『どういうことです?』
鬼門の問いに、加持はいつもながら冷ややかな表情で答える。
『妖たちに、酒童嶺子が鬼の力を発揮し出したのが暴露た』
加持は言った。
酒童が人狼を討伐した翌日の夜、酒童が謹慎で自宅にこもっている間、地区長と妖の頭領・空亡のみで秘密裏に話し合いが行われた。
《九鬼のせがれが、鬼の力に目覚めたそうではないか》
九鬼のせがれ……酒童嶺子のことである。
《我々としては、あのような“遺伝子汚染の種”は、早急に処分したいのだが》
空亡はそう言ったらしい。
したいのだが、と言うが、彼らはきっと『処分しろ』と言いたかったに違いない。
それを聞いた鬼門は、険しい貌になった。
酎ハイの蓋を開け、それで喉を潤す。
『で、あなたはなんと?』
威圧的な語調で、鬼門は問いかける。
『明日の夜、妖の一行と会議を行なう。
行くのは私と鬼門と、そして酒童嶺子だ』
『他の羅刹たちは?』
『これは羅刹の話じゃあない。
……24年前の、あの事件の関係者だけが集まるんだ』
あの事件、という言葉に、鬼門は眉をしかめる。
あの事件とは、今から24年前。
27世紀になって初めて、民間人が西洋妖怪の犠牲になった事件である。
原因は、民家に施された結界に老朽化の不備があったことだった。
脆くなっていた結界は、あろうことか、西洋妖怪の攻撃を回避できなかった。
そしてその民家は壊され、住んでいた母子2名のうち、母親が犠牲になった。
一方、救助された子供は現在―――酒童嶺子という名で育てられ、成人した。
そして子供を救助した羅刹―――鬼門雅幸は、班長にまで登りつめた。
酒童嶺子と鬼門雅幸。
この2人こそ、その事件の関係者である。
なぜ関係者だけが呼ばれたのかと言うと、これは妖たちからの要求だった。
《必要最低限の人数で、槿花山の城の天守閣まで来い》
彼らが言うので、加持は、酒童に関連する事件の関係者のみを選んだ、というわけだ。