羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
昨夜の話を想起し、鬼門は小生意気に顎の角度を上げる。
「最終兵器、ですか」
鬼門は感情のない声色で言う。
酒童は、強い。
彼自身が認識しているよりも、人や妖たちが認識しているよりも、ずっと強い。
かつて酒童が収容されていた研究棟の科学者らによれば、地区最強にとどまらず、彼は鬼の中でも最高峰に並ぶ力を秘めているかもしれない、という。
人や妖の予想を凌駕する力の持ち主だが、しかし彼は決して“兵器”ではない。
なぜなら、彼が“奪うことができる命”には限りがあるからだ。
この日本列島を囲む海を超えた場所には、いくつもの広大な大陸が広がっている。
今から大昔、その大陸の国々の間では、宗教だの利益だの資源だのというものを巡って、たびたび戦争が繰り返されていたという。
中東、アフリカ、南米―――。
その戦には、歩兵はもちろん戦車だって使用されている。
加持は酒童を《戦車などというモノ》と同類として見ているのではないか。
鬼門はそう、加持を疑っているようであった。