羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
確かに、酒童は戦車と同じかもしれない。
顔もそこそこ整っていて、黙っていれば喧嘩の強そうな美男だ。
彼を戦車として例えるのなら。
そう、まるで、車体も汚れひとつなく美しくて、真新しそうだが……弾がひとつしか入っていない戦車だ。
それは、戦に駆り出された歩兵を殺すためのモノでもなければ、
手榴弾を手にし、歪な宗教をすり込まれた少年兵を粉々にするためでもない。
その砲台の中に入れられたひとつの弾は、ただひとつ、その頭領の首を撃ち抜くためにある。
いわば酒童は、それなのだ。
酒童は西洋妖怪以外は、なににも、誰にも手をあげない。
彼の中では、討つべきものは人々の害である、西洋妖怪。
だから酒童は、それらにのみ残酷になれるのだ。
悪く言えば、それは差別かもしれない。
しかし酒童は、戦車の砲台から放たれる砲撃のように、無差別に人命を奪ったりはしない。
「……溺れているな、鬼門よ」
加持は目を細めた。
「お前が意見したいことは、だいたい読める。
酒童は兵器と呼べるほど残忍ではない、と言いたいんだろう」
「それがどうしたというです」
「要は、お前も酒童ファンか、と言いたいのさ。
彼に厳しくしておきながら、実はお前がいちばん、酒童の持つ“良心”と“甘さ”に溺れていた。
まるで自慢の息子を見るような目だ」
「なに」
「お前は私と同じで、感情を全て捨て去った男かと思っていたが……。
存外、お前はまだ人だったな」
加持は禿頭をさする。
「酒童をどう思うかは、人それぞれだ。
人に化けた鬼とも思うもよし。
人と思うもよし。
はたまたこの国の西洋妖怪を駆逐する兵器と思うもよしだ。
だがくれぐれも、その意見と反抗的な態度を、妖たちの前で露出するなよ」
加持の言葉に、鬼門は渋い顔をしつつもうなづいた。
此度の会議は、酒童も連れて行くことになっている。
―――俺はやっぱり、怪物として処分されるんでしょうか……。
うなだれて、己の存在価値さえ否定されたと嘆く酒童の顔が、鬼門の目に浮かぶ。
つきん、と、鬼門は心臓に何かが刺さるような気分になった。