羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「鬼、って、どういうことですか?」


茨が噛みつかんばかりに問うた。

 鬼門はそれを喧しそうに藪睨みすると、「あなたには関係のないことです」と、犬を追い返すふうに手を払う。


「酒童さん。
あなたはこの後、わたしたちと共に槿花山へ同行していただきます。
私はそれを言いにきたのです」

「槿花山、ですか?」

「とある方々と会議を行います。
それに同行なさい。
言っておきますが、あなたに拒否権はありませんよ」


 鬼門は唐突に言った。

 酒童は仰天する。

 酒童はこの後の用事がなかったからいいにしろ、なんの予告もなしにそのようなことを言われたらたまらない。

 そういうことは、もっと前もって言っておくべきではないだろうか。

―――そう、酒童は思ったが、普通の会社と違って、羅刹には緊急事態も多く、前もって言っておくことができないこともある。

駆除作業の援護で残業になることも良くあることだ。

 まして相手は、上司である。

部下の自分に、他言など無用なのだ。


「……わかりました」


 酒童はされるがままにうなづいた。
 
 鬼門はひと段落ついたように肩を下ろすと、ぐいと酒童の手を引いた。


「では、さっそく向かいますよ」

「ま、待ってください!」


 そこで、足を踏み出した鬼門の前に、なんと茨が立ちはだかった。




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