羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



3


 ひとりの隊員が、酒童と茨が向かい合って座っているところに颯爽と歩み寄る。

 鬼門である。

 三つ編みにされて纏められた髪が、虎の尻尾のごとく揺らめく。


「酒童さん」


 鬼門は酒童を上から見下ろし、地に落ちる氷柱のような言葉を放つ。


「昨晩、また鬼になりかけたそうですね」


 鬼門は容赦無く、酒童の傷口に塩を塗る。


「す、すみません、鬼門班長……」


 酒童はへなへなと立ち上がり、頭を下げて謝る。


「あなたなら己の血を制御できるかと高をくくりましたが、存外、その程度のようでしたね」

「―――俺の力不足、でした」

「あの時は天野田さんが止めたようですが、もう彼の班ともまた別行動になる。
そうなった時は、誰があなたを止めるんです?」


 鬼門は問うた。

 酒童には、鬼門がとどのつまり何を訊きたいのかわからない。

 そして、自分の意志だけではなかなか血の力を制御できないと知った今、どうすれば力を抑えられるのかも、わからない。

 酒童はしばらく黙りだった。








< 332 / 405 >

この作品をシェア

pagetop