羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
妖と人の視線が、何事かとばかりに一挙に襖へと集結する。
襖の奥から、人がひとり現れた。
見たままでいえば、酒童とたいして変わりない年齢と思われる。
白いカッターシャツに黒いスーツのズボンと言った、いかにも現代人らしい格好である。
細面で色白、しかも日本人とは思えないほどに足が長く、長身だ。
適度に伸ばした髪は漆黒で柔らかそうだった。
どこからどう見たって人間だ。
しかし。
(あっ)
鬼門の影から顔をのぞかせ、酒童は男の目に注目する。
男の丸みを帯びた大きな目には、なんと、鬼と化した酒童と全く同じ、
翠の瞳が埋め込まれていたのである。
(鬼‼)
酒童には分かった。
決定的証拠は彼の瞳の色くらいしかないが、やはり同族であるからか、酒童は確信する。
あれは人ではない。
“鬼”だ。
「なっ」
そこで、妖たちが急にどよめいた。
その中でも、真っ先に立ち上がったのは白澤であった。
「おのれ、なにをしにきたのだ!
―――九鬼!」
くき、と呼ばれた鬼は、白澤の気迫など屁の河童とばかりに、澄ました顔をしている。
「相変わらず騒がしいな、白澤。
“かるしうむ”が足りていないのではないか?」
鬼は妖の賢者たる白澤に向かって、無礼にも程がある態度で返す。