咆哮するは鋼鉄の火龍

正義を語るは偽りの正義

 要塞を占拠していた兵を捕らえ、要塞と火龍の被害調査が行われてた。

 要塞主砲は五門のうち三門が大破し、残りの二門の内一台は戦闘前から他の砲台の部品取りが行われていた為、見せかけだけの飾りであった。
 
 要塞機関部は正面から向かって左右に二つあったが、その内の一つは火龍の主砲の被弾により完全に沈黙し、修復不可と宇佐美は判断した。
 
 火龍は戦闘ヘリに受けた意外の損傷は無く、なんとか現場で直せる程であった。

立花
「ごめんよ飛脚、もう一度頼む」

 飛脚と名付けられた伝書鳩は悲しそうに鳴き、水と餌を与えられ、火龍に戻って来てからまた直ぐに戦勝報告の為飛ばされた。

佐竹
「やっと東名まで後少しってとこですね。
 
 どうします、このまま一気に東名の本部に向けて出発しますか?」

立花
「いや、流石に戦力差が大きすぎるでしょうね、総力戦になるでしょうし、少なくとも向こうはね」

佐竹
「簡単には勝たせてくれないでしょうね」

立花
「まーとりあえず援軍が来るまでにやるべき事を少しでもやっときましょうか」

佐竹
「そうですね、私は考えずに体を動かします」

 立花達が戦後処理に追われる頃、飛脚の到着によって報告を受けた黒田が緊急幹部会議を開いた。

 そこでは東名制圧部隊の編成が行われていたが、会議は難航していた。

 只の一ポリスを落とすならば容易ではあったが、発電所、渓谷、戦闘ヘリに移動要塞までも所持していた東名本部の戦闘力は未知数であった為である。
 
 その結果、大規模な軍が編成された為に立花の肩書きでは収まらないと判断され、総大将を誰にするかで会議は揉め始めていた。

 実質、軍を集めた黒田が当選に濃厚であったが結果はそうでなかった。

 黒田はそれに満足した様に森の待つ自室に戻っていった。

黒田
「要は誰が栄光と権力、はたまた敗戦の汚名を被るかって事さ」


「でも制圧までは立花さんが指揮を採る約束でしょ?」

黒田
「餌を目の前にした豚に『待て』を言った所で守ると思うか?」


「本部を落としたら大手柄ですもんね」

黒田
「だが十分育った豚に餌をやる程俺は甘くないけどね」


「それで誰です?」

黒田
「そりゃ太った豚は飢えた狼に食われるのさ」


「飢えた?老いた老犬の間違いじゃないですか?」

黒田
「おっ言うねー、分かってるんじゃない。

 でもあの人、かなりやるよ?」


「伝説が一人歩きしているだけじゃないんですか?」

「散々な言われようだな」

 突然ドアを開け今回の総大将に選ばれた竹中大将が入ってきた。

 会議で中々決まらなかった所、陰の最実力者の黒田が形式上民事と軍事のトップである竹中を推薦し、竹中はこれを了承した為に他の幹部は意見する事が出来なかった。

 それ程の実績が竹中にはあったのだ。

 黒田は立ち上がり森と一緒に苦笑いしながら敬礼した。

竹中
「二人共休め、…確かに実働部隊を既に持たんわしはお前等と違って飢えた狼さ、しかし老いた老犬は…まあ老いとるな、はっはっは」

黒田
「今回は私が指揮を取るべき所を押し付ける形となって申し訳ありません」

竹中
「お前がこれ以上勝って力を付けるのを快く思わん奴らはまだいるさ、それに老い先短いわしが戦功を上げた所で大した影響力は無いと踏んどるんじゃろが?」

黒田
「決してそんな事は…」

竹中
「隠さんでももうええ、お前等みたいな幹部を長年統率しとるんじゃ、それ位分かるわい」

黒田
「さすが、箱根の中興の祖ですね」

竹中
「老人に鞭打つような事をしおって、わしがここ最近でしゃばらんのはこれからの若い世代で箱根を導いていかなくてはいかんと思ったからだぞ?」

黒田
「花を持たせたかったんですがね」

竹中
「葬式用のか?

 引導の間違いじゃないのかね?」

黒田
「力無き正義は悪、力を付けた悪は正義。

 強く狡猾になれと言った貴方のやり方に従っただけですよ」

竹中
「その師匠を戦地に送るとはなんちゅう弟子じゃ」

黒田
「でもお世辞抜きで勝てそうなのは竹中大将位ですし」

竹中
「まーやるだけやるさ、万が一何かあれば後を頼む。

 この意味分かるな?」

黒田
「尽力します」

 竹中は優しく笑うと部屋から出ていった。


「常々思いますけど食えない人ですね」

黒田
「そりゃ長年色々なものと戦って皮と骨だけだし食うとこ無いさ、でも数少ない軍部の良心だぞ。

 それにあの人は叩き上げの軍人でね。

 若い頃は彼の英雄談に心踊ったものさ」


「勝てますかね」

黒田
「飢狼の竹中、達磨の斎藤、それにうちのエースだろ?

 勝てなきゃ終わりさ、まあでも敵の戦力分からんけど」


「無責任だなー」

黒田
「だって負けても、もう俺の責任じゃないしね」


「皆に言っちゃお」

黒田
「俺は冗談だけど、冗談だよね?」
 
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