狡猾な王子様
それでも、「ついでですから」と買って出たのだ。


だって……。


配達した野菜を見る度にイキイキとした笑顔になる英二さんを、もっともっとたくさん見たくて。


お客さんに少しでも喜んで貰おうと頑張っている、いつだって一生懸命な彼の役に少しでも立ちたくて。


なによりも、英二さんに喜んで貰いたいと思うから……。


こうして、家族にも内緒で特別に配達をしている。


「冬実ちゃん、今日のオススメはなに?」


「山野農園のオススメは、いつだってトマトですよ」


「やっぱり?でも、毎回いいツヤだもんね。これなんか、特に綺麗」


「あ、本当ですね。もしかしたら、今日配達した物の中で一番ツヤがあるかもしれないですね」


「たしかに」


「きっと、丸かじりが一番美味しいですよ」


「そう?じゃあ、せっかくだから、このまま食べてみようかな」


英二さんは言い終わるのと同時に、手にしていた真っ赤に熟れたトマトにかぶり付いた。

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