狡猾な王子様
「もしかしてお腹空いてるの?」


英二さんは私の態度に触れることなく、ごく自然にフワリと微笑んだ。


「え?」


的外れな言葉にまぬけな声を漏らして、瞬きをしながらキョトンとしてしまう。


すると、英二さんがクスリと笑った。


「なんだか物欲しそうにしてるから。冬実ちゃんもトマト食べたかったのかな、って」


「ち、違いますっ……!その……トマト、洗わないで食べちゃったから……」


咄嗟に思い付いた言い訳を口にして、アイスティーに視線を落とす。


「あまりにも美味しそうだったからさ。それに、冬実ちゃんも『畑で採れたのをそのまま食べる』って言ってたよね?」


「たしかに、そのまま食べる時もありますけど……」


「だったら、問題ないよ」


「でも、私は農家の娘だから慣れてるし……」


「どういう理屈?」


英二さんはおかしそうに瞳を緩めてクスクスと笑うと、再びトマトにかじり付いた。


その横顔はとても綺麗なのに、まるで子どものように無邪気にも見える。


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