狡猾な王子様
私も、二年程前までは小さな工場で事務の仕事をしていた。


高校を卒業してからずっと働いていた工場で、実家に住んでいる間に辞めるなんて考えたことがなかったけど……。


不景気の煽りでその工場が差し押さえに遭い、辞めざるを得なくなってしまった。


最後の一ヶ月分の給料も出なかった程で、そこまで追い詰められていたなんてまったく知らなかった社員たちは皆、言葉も出ないくらいに驚いていた。


中には、工場を畳むことをある日突然告げた工場長を酷く責める人もいたけど……。


職種は違うとは言え、実家が農業をしている私にはどうしても他人事には思えなくて、工場長や彼の家族のことが心配で堪らなかった。


人の好い工場長はひとりで色々なことを抱え込んでいたようで、程なくして鬱病を患ったと聞いた。


涙を流しながら頭を下げた工場長の痛々しい姿は、今でも脳裏に焼き付いて離れない。


だって……。


家業をしている以上、同じ目に遭う可能性がないとは言い切れないのだから──。

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