狡猾な王子様
「南ちゃん」


心配してくれていたこと、叱ってくれたこと。


私を元気付けるために連れ出してくれたこと、そして黙って話を聞いてくれたこと。


ひとつひとつに感謝の気持ちを込めて、南ちゃんに満面の笑みを向けた。


「色々とありがとう」


どれだけ伝えても足りない感謝の気持ちを一言に纏めてしまったけど、南ちゃんは嬉しそうな顔を見せてくれた。


「帰ろっか」


「うん」


アクセルを踏まれた車は、ようやく一歩を踏み出せそうな私を導くように前に進み始める。


エンジンを切っていた車内の温度はいつの間にか下がっていて、頬に触れる空気は冷たかったけど……。


可愛い手袋に包まれた手はとても暖かくて、それを見るだけで笑みが零れた。


これからのことは、わからない。


褪せない想いを英二さんに伝えるかどうかまではまだ考えられないし、そんな状態ではなにかが変わるわけではないのかもしれない。


だけど、前を向く私の心には、頑固な恋情と向き合う覚悟があることを感じていた──。

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