狡猾な王子様
シャンプーや石鹸にこだわりがあるわけではないけど、英二さんの周りにいる女性たちはきっとブランド物を使っているのだろうと考え、つい重いため息が漏れた。


安っぽい香りを纏う私は、どうしたって彼に釣り合うはずがない。


だから、英二さんに振られてしまっても仕方ないと思うけど、彼に投げ掛けられた言葉はどれも納得できるようなものではなかった。


『心はあげられないけど、体だけならあげてもいいよ?』


自然と何度も蘇って来るのは、とても残酷な意味を孕んだ言葉。


恋愛経験がほとんどゼロに近いとは言え、その意味がわからないわけではない。


ただ、私にはそれに乗っかってしまえる程の勇気はないし、そもそも頷く選択肢なんて最初から1ミリたりとも持ち合わせていない。


それに……。


英二さんはきっと、私が首を縦に振らないことをわかっていたような気がする。


それでいてあんなことを口にするなんてやっぱり酷いし、もしそれをわかっていなくても残酷なことに変わりはない。

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