狡猾な王子様
まだ梅雨の最中だったあの日は、もう三ヶ月も前の事──。


木漏れ日亭の女性客は、相変わらずキラキラと輝くように可愛かったり綺麗な人たちばかりで、あの一際綺麗な女性にも何度か会うことはあった。


他の女性とは違って、彼女だけはお客さんがいないような時間帯によく姿を見ることから、“そういう関係”が続いているのだとわかった。


だけど……。


私はその女性と鉢合わせても愛想笑いを浮かべ、いつも必死に何食わぬ顔をしていた。


あの女性の名前が佐武未散(さたけみちる)さんだと知ったのは、彼女との対面がもう何度目なのかわからなくなった頃のこと。


木漏れ日亭の前で、『よく会うわね』と上品に微笑んだ佐武さんの方から名乗ってくれた時……。


私は、自分とは人種が違うようにすら見える彼女を前に居た堪れない気持ちになりながらも、『山野冬実です』と小さく告げた。


すると、佐武さんは満足そうな笑みをフワリと浮かべ、まるで私を見定めるかのような視線を向けて来た。

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