【特別番外編】苦手な教師



「ふふ……真山先生なら言いそう」


台所で味噌汁の鍋をかき混ぜながら千秋が笑う。

前に偶然、真山とその恋人と鉢合わせたときのことを思い出したのだろう。

あの時は少しだけ真山の焦る姿を見られた気がした。

きっと、真山をまっすぐに見つめていたあの彼女が、奴を人間らしく変えたのかもしれない。


「――先生、ご飯できましたよ」


そんなことを思っていると、目の前には千秋の作ったあたたかい食事が湯気を立てていた。

僕たちは向かい合って「いただきます」を言い、色違いの茶碗を片手に笑い合う。

千秋は週に一度、こうして料理を作りに来てくれる。

彼女の作るものはどれも僕好みの味付けで美味しくて、やっぱりバレンタインは手作りのものが欲しいとしつこく思ってしまうけど……


「ねぇ、先生」

「ん?」

「今日……泊まってもいいですか?」

「……もちろん」


その可愛さに免じて許してあげよう。

ただし、今夜は少し意地悪がしたい。

真山のようにポーカーフェイスで攻めたら、千秋は喜ぶだろうか。


喜んだらそれはそれで……

とても、複雑だ。





-end-


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