WITH


私は困惑し、リビングのソファーに辿り着くまで何も言葉を発せずにいた。


廉によってつけられた照明に目を眩ませている間に、廉は私の隣に並ぶようにして座り、スーツの上着を脱いでいるところだった。



「何で、来たの……?」


「紗和に会いたくなったから」



何でもないことのようにシレッと言い退けながら、ネクタイまでをも緩めている廉に、私は溜息とも取れるくらい、盛大に息を吐き出していた。


私が言えずにいたことをいとも簡単に言ってしまう廉に、悩んでいたことさえバカバカしく感じられてくる。


その上、緊迫感のかけらも無さそうに落ち着き払っている廉は、余裕と呼ぶに相応しいくらいの態度でソファーに体を沈めている。



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