もう一度愛を聴かせて…
大学病院のほうが高性能の機材を使っているのか、赤ちゃんの手足も頭も、前よりクッキリと見えたのだ。


そのとき、音の正体に気がついた。

それはお腹の赤ちゃんが生きている証――。


先生はわたしの視線に気づくと、パチンと画面を切る。「母体に問題ないようなので、すぐに手術をしましょう」そう言われたのである。


術着に着替えるよう言われ、わたしはひとり部屋に残された。

ポケットの中には、安西産婦人科でもらったエコー写真がある。


すっごく大きくなっていた……ちゃんと手も足もあった……顔の輪郭も見えた気がした。


「パパ似かな……」


お腹に手をあてて呟いた瞬間、わたしの中で何かのスイッチが入った。

あとはもう夢中で……トイレに入るふりをして、奥の非常階段から病院を抜け出していた。


< 42 / 56 >

この作品をシェア

pagetop