もう一度愛を聴かせて…
「あの、ドアを開けておいてもらえませんか。父に言われてますので」

「橘が来たときは閉めてるじゃないか」

「え?」


その瞬間、急に声音まで変わった。


「アイツってそんなにいい? 僕のことも試してみてよ」


言うなり、市村さんはお盆を持ったわたしの手を掴んだ。

派手な音がしてお盆が落ちる。不幸中の幸いというか、湯飲みは割れずに床に転がっただけだった。

ホッとする間もなく、わたしは手首を壁に押し付けられていた。


「やっ! ちょっと何? 市村さん何するんですかっ!」


そう怒鳴った瞬間、市村の顔が近づいてきた。

キスされる――わたしは顔を左右に振って必死で逃げようとする。


ファーストキスは三ヶ月前。

相手はもちろん、お父さんに内緒で交際を始めたばかりの橘さんだった。

幼稚園から私立に通い、小・中・高と全部女子校だったわたしにとって、高校三年になった今年の春、告白されて付き合い始めた橘さんとの経験がすべてだ。

橘さんに望まれたら、いつだってバージンを捨てるつもりでいる。

プロポーズされたわけじゃないけど、一生彼ひとり、と心に決めていた。


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