【短編】ユキと最後のKiss


声にならない声を出して驚く彼女が震える手で精一杯しがみ付いてくる。

その彼女の視線の先、一番色濃く塗られたベッドの中に息絶えた父親と母親はいた。

身体を鋭利なもので引き裂かれたようにぱっくりと布団と一緒に穴をあけている。

其処から未だ血が溢れているのか、真っ白な布団とシーツは赤く色を変えていった。


「お、にい様……おに……さ、ま…………」


蚊の鳴くような声が聞こえて、そちらを見るとカタカタと震え、青白い顔したまま目を見開く姉がいた。

その視線の先にはきっと、兄がいる。

この状態の姉を見て、想像なんてすぐに出来るだろう。

それでも祈るように、縋るように、動かない首を無理矢理動かした。



――嗚呼、やっぱり。


 願いが聞き届けられる事はなく、変わり果てた兄の姿があった。

床に転がっている首は身体がなかった。

壁に凭れている身体は首がなかった。



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