RED ROSE


 ――メール、来てるかな。

 鞄の中からスマートフォンを取り出して指で画面を器用に操作する。新着問い合わせをしてみたが、メールボックスに新着メッセージはなかった。

 朝からもう、何度も繰り返しているこの作業。さすがに美玲の唇からは、落胆のため息が洩れた。

 朝から淡い期待を胸に、授業中もスマートフォンばかりが気になって全然集中できなかった。

 駄目なのかな……。雲が夕焼けで赤く染まっている。眺めていたら哀しくなり、美玲はまた、ため息をついた。

 ――帰りたくないな……。

 トボトボと足を進め、家へと続く角を曲がり、暗い顔で門を目指す。と、家の前にバイクが停まっているのが見え、思わず足を止めた。

 門扉の横の塀に背中を預けている、長身の青年が映る。美玲は思わず駆け出した。

「朝比奈さん!」

 その声に大翔が気付き、目元を微かに和らげる。その数ミリの笑顔が、美玲の胸を弾ませた。

 ――来てくれた!

 朝から幾度も確認しては落胆したメールの事等すっかり吹き飛び、心臓が踊り出す。スーパーの袋が加速を邪魔する。すぐそこなのにたどり着かないもどかしさに少し苛つきながら、美玲は必死に足を動かし、大翔の側にやって来た。

「あの……」

 お弁当、美味しかったですか? 好きなものは何ですか? 訊きたい事、言いたい事が溢れ、どれから先に話せばいいのか判らない。と、

「日向さん」

 ふわりと大翔が美玲の名を呼び、手に持っていた手提げ袋を差し出してきた。

「あ……」大翔の手の中にある小さな包みに、美玲は息を呑んだ。袋の中が全く手付かずな事に、気付いた。

「……ごめん。せっかく作ってくれたのに……」

「え……?」

 大翔の掌から美玲の手へと押し付けられるそれが、ほんのり冷たい。きっと、冷蔵庫にでも入れてあったのだろう。それは、そんな冷たさだった。しかし、そんな事はどうでもよかった。

 ――食べてもらえなかった……。

 弾んでいた気持ちが穴の開いた風船のように、一気にしぼんで冷えてゆく。美玲は、震えながらじっと大翔を見つめた。

「あの……」

「ごめん」
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