RED ROSE
大翔の手が、ゆっくり袋から離れてゆく。美玲の瞳が潤んだ。
「迷惑……だったんですか?」
返された包みと大翔を交互に見つめながら、美玲は訊いた。
「あたしは……」
「あの夜のお礼なら、昨日ので充分だよ」
美玲の言葉を遮って大翔が言った。美玲は返す言葉が浮かばず、袋を持ったまま俯いた。
「僕はただの通りすがり。もう気にしないで」
それだけ言い、大翔が美玲の横をすり抜け、ヘルメットを手に取る。
「――嫌です」
その時、美玲は思わず叫んでいた。
「嫌です!!」
大翔の動きがぴたりと止まる。美玲は袋を握り締め、ゆっくりと大翔の方へ向き直った。
「あたしは日向美玲。七月七日生まれの十六歳、高校一年生です!」
声には応えず、大翔がヘルメットを被ってバイクにまたがる。すると美玲はそのバイクの前に立ちはだかり、両手を広げた。
「あなたは“通りすがり”なんかじゃない!」
エンジンをかけようとしていた大翔の手が止まる。美玲は構わず続けた。
「あなたが好きです!」
夕暮れの住宅地に美玲の甲高い声が響き渡る。バイクにまたがったまま、大翔がゆっくり、ヘルメットをとった。
――好きだから“助けて”。
二人の髪を熱風が揺らし、ひぐらしの鳴き声が辺りをぐるぐる回る。ヘルメットをとった大翔が、真っ直ぐ美玲を見、口を開いた。
「俺は……朝比奈大翔。前科者の、殺人犯だよ」
“殺人”という言葉に、美玲の瞳が見開かれる。
「人殺しの俺なんて……やめた方がいい」
そう言い残し、再びヘルメットを被って大翔がバイクでその場を去る。残された美玲は愕然とした表情で、その場に立ち尽くした――。