RED ROSE
「……」
「本当に好きな人とするセックスって……どれくらい気持ちがいいの……?」
「な……」
突然そんな質問をされ、大翔が言葉を詰まらせる。美玲は背を向けたまま、先を続けた。
「あたし、“そういう”セックスは経験ないの……」
「美玲ちゃん……」
「あたし……汚れてるの……!」
全身から絞り出すようにそう叫ぶと美玲は大翔の方を向いて、借りたばかりのシャツを脱ぎ、一気に制服のシャツを引き裂いた。
はらりと、床に二枚のシャツが落ちる。その姿に、大翔が目を見開いた。
「美玲ちゃ……」
「これが……あたし」
そう言って、美玲が肩を落とす。涙がぽたぽたとカーペットを濡らした。
知られたくなかった……。だけど、巻き込みたくない……。
下着だけとなった美玲の上半身に存在する無数の痣と朱。それが何を意味するのか、大翔はすぐに理解した様子で、しばらくの間そうした後、ゆっくりと体を屈め、床に落ちたシャツを拾い、優しく美玲の肩にかけた。
「――警察に行けないのは、まさか……」
大翔の問いに美玲は黙って頷いた。
「……父親」
大翔の指がゆっくり、シャツのボタンを止めてゆく。その指先を見つめながら、美玲はゆっくり語り出した。
「中学に上がった頃くらいだったかな……。酒を飲んではお母さんを殴るようになって……。そのうち、あたしを――」
「もういい」
大翔の指が美玲の頬の涙をすくう。美玲は堪らなくなり、その指から逃れ、また背を向けた。
「……好きになってごめんなさい。朝比奈さんなら、助けてくれるような気がして……」
「お母さんは、この事……」
「知ってる。けど、何も言えないの……。殴られるから」
もう、逢わない。シャツの前をグッと握りしめ、美玲はきつく唇を噛んだ。好きだけど、あたしは……。
「帰ったらまた……」
大翔が声をかけたが、美玲はかぶりを振った。
「他に行くとこ、ないから……」
「じゃ、ここにいればいい」
「えっ?」
美玲の口から思わずそんな、頓狂な声が飛び出した。思わず振り返った大翔の真剣な目に、それ以上は問えなくなる。美玲は微かに唇を開いたまま、息を呑んだ。
「家に戻っても暴行が繰り返されるだけだ。ここにいればきみは、安全でいられる」