RED ROSE


「あの子、社会の須藤(すどう)とできてるらしいよぉ」

「えっ、須藤と! うわっ! キモ!」

 内容はクラス内の噂話や、ファッション、小説、漫画や映画等、多岐にわたる。時に非情に残酷に誰かを斬りながら、話はどんどん、途切れる事なく続く。と、遥が手にしたポテトで美玲を指した。

「美玲さ、あたしに隠し事あるよね?」

「えっ?」

「秋くらいから、彼氏いるでしょ」

 遥からの唐突な指摘に美玲は思わず言葉を詰まらせた。

 ――彼氏……。

 遥が誰の事を指して言っているのかはすぐに判った。大翔だ。恐らく街のどこかで、一緒にいるところを目撃されたのだろう。

「かっ、彼氏じゃないよ、あれは――」

 そこまで言ってまた、美玲はまた言葉に詰まった。

 あれは……。大翔の事をどう説明すれば一番しっくりくるのか、上手な言葉が見つからない。

「し、親戚! こっちの大学通ってて、家に下宿してんの」苦し紛れに咄嗟にそんな嘘をつく。

「ふ~ん」遥は少し、疑わしい感じでそう呟いた。

「てっきり、内緒の彼氏かと思ったよ。彼が凄~く、優しい眼で美玲の事、見てたから」

「あ……」遥の言葉に、美玲は思わず遥から瞳を逸らし、窓の外へと視線を移した。「“妹”みたいらしいから……」

「妹……」

 女同士と言うのは、相手の声色や表情を時に上手に、時に敏感に読み取る。遥はどうやら美玲のその表情から、彼女の中の何かを感じ取ったらしく、体を窓側に傾けて、美玲の顔を覗き込んだ。

「美玲、もしかして……」

「……うん」

 遥に覗き込まれた美玲の瞳から、すうっと一筋、涙が流れた。

「……好き」

 出逢って間もない美玲の家庭状況を知り、共に生活しようと、美玲が必死に差し出した指を優しく、しかし、力強く握って助け出してくれた大翔。しかし、もう三ヶ月以上一緒にいるのに、二人の間にはそれ以上の事は何もなかった。

「美玲……」

 涙を流した美玲を、遥が哀むとも慰めるともつかぬ表情で見つめている。美玲はその表情にはっとした様子で、慌てて作り笑いをした。

「ご、ごめんね……。せっかく楽しく話してたのに、湿っぽくなっちゃった」

「美玲……」

「だ、大丈夫だから。“妹から恋人”になる事だって、なくないしっ」
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