RED ROSE


「……」

 緊張した面持ちで美玲が床からスマートフォンを持ち上げる。大翔はその様子をじっと見つめていた。

「……警察」ディスプレイを見て美玲が大翔を見る。どうやら、先程と同じ番号らしい。

「……もしもし」

 大翔が無言で頷いた。それを見て、美玲が恐る恐る電話に出た。

「もしもし、日向美玲さんですよね? こちら、先程お電話した、Y署の馬渕(まぶち)と申します」

 地声が元々そうなのか、一回目の電話の際の美玲の反応を受けてなのか、相手の警察官の声は、大翔の耳にも届くほど大きかった。

「先程のお電話の際にも伝えしたんですが――あの、大丈夫ですか?」

 やはり美玲を気遣ってなのだろう。馬渕と名乗った警察官の口調は穏やかで慇懃(いんぎん)だった。

「……はい、大丈夫です」

 心細げに大翔を見上げ、美玲が小さく頷く。

「判りました。では、もう一度、改めてお伝えします」

 美玲の返答に安心したのか、馬渕はそう言って、少し間をおいた。その間に、美玲がスマートフォンをスピーカーにした。

「先程、搬送先の病院で――お父様が亡くなられました」

 瞬間、スマートフォンを持つ美玲が大きく息を呑んだのを、大翔は感じた。

「は、母は……」小刻みに体を震わせながら、美玲が呟く。大翔は自分でも気付かぬうちに、美玲の肩を抱いていた。

「お母様は署の方で、現在も取り調べ中です」

 取り調べ? 馬渕の言葉に大翔は思わず美玲を見たが、彼女はそれどころではない様子だった。

「あの、父は、本当に、死んだんですか……?」

 小刻みだった震えが大きくなる。そんな美玲を大翔は後ろからしっかりと抱き締めた。

「はい。あの、今から病院の方に来ていただく事は可能でしょうか? よろしければ署から、迎えに――」

 馬渕の声は相変わらず穏やかである。しかし返ってそれが、美玲の気持ちを乱しているように大翔には感じられた。恐らく、馬渕という警察官の、その、あえて穏やかな口調が、彼の言葉が覆しようのない事実であると、否応なしに美玲に認めさせているのだろうと大翔は思った。

「……いえ、自分で行きます」

「判りました。では、病院の方で署の者がお待ちしておりますので」

「はい」

 蚊の鳴くような返事をして、美玲が電話を切る。直後、彼女は一気に脱力し、大翔の胸にその華奢な身体を預けてきた。

「美玲ちゃん」
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