RED ROSE
しっかりと美玲を支えながら、大翔は美玲の顔を覗き込んだ。大きな瞳が、まるでぼっかりと開いた闇の穴のように大翔を見上げた。
「ふ、ふふ……」
大翔を見上げた瞳が、いきなり三日月のように細く歪み、唇が緩んで声を発した。
「お父さんが死んだって、大翔さん」
肩をヒクヒクさせながら、美玲が大翔を見上げ続ける。やがて彼女は高らかに声をあげ、笑い始めた。
「あいつ、いなくなったんだよ、大翔さん」
美玲の言葉に、大翔は背筋が冷たくなるのを感じずにはいられなかった。
美玲が実の父親から受けていた行為。その“過去”となったばかりの忌まわしい記憶が、彼女にこんな行動をとらせているのだと理解している一方で、そんな彼女を客観的に見つめている自分が確かにいた。そしてその自分は、彼女の常軌を逸した狂気な笑いに、嫌悪感を抱いていた。かつて自分も抱いた事のある狂気と、同じ匂いだったから―― 。
――いけない!
一瞬、過去の記憶が甦りそうになり、大翔は激しくかぶりを振り、甦りそうになった記憶を無理矢理、脳の奥底へとねじ込んだ。
――今は思い出しちゃいけない!
強い気持ちで一度強く目を閉じ、それから大きく息を吸った後で一瞬、呼吸を止める。
――落ち着け!
深夜の室内に響き続ける美玲の笑い声。胸の支えを下ろすように息を吐き出し、大翔は目を開けた。そして、天を仰いで笑い続けている美玲を自分の方に向かせ、強く頬を打った。
乾いた音が室内を飛散し、笑い声がぴたりと止む。正気に戻った美玲が大翔を見上げた。
「病院に行かないと」
「あ……」大翔の言葉に美玲の瞳が揺れた。「――お母さん」
揺れた瞳から、つうっと静かに涙が溢れだす。
「どうしよう……お母さん」
美玲はそう言うと大翔の腕から離れ、ガクガクと震えだした。
「お母さんが、お父さんを……殺した……」