RED ROSE


「母は、どうなるですか?」

 霊安室でも訊ねた事を、恐る恐る訊くと、菅原は乗り出していた身を引き、小さくため息をついた。

「お父さんが亡くなって、殺人未遂から殺人に容疑に切り替わった。初犯とは言え、寝ていた相手を何度も殴って更に首を締めるという残忍性と明確な殺意が存在するる犯行だから、恐らく長く服役する事になるだろう」

「まさか、死刑……?」

 震える声で美玲が訊ねると、菅原は申し訳なさそうに首を横に振った。

「それを決めるのは僕らじゃないんだ」

 その言葉に美玲はこくりと頷いた。頷くしかなかった。そして、またもや逡巡したまま、結局何も言えなかった。




 事件から二週間が過ぎた、

 クリスマスから年末まで、事件は新聞やワイドショーで報道されたが、動機が予め判明している事、犯人が既に逮捕され、犯行を素直に自供している事等から、世間の注目を大きく浴びる事なく、年明けにはどこに報道しなかった。美玲から連絡を受けた母方の祖父母は激昂したり号泣したりと忙しく感情を動かしながらも、連絡が一切とれない父方の親戚が当てにならない為、自分の娘が殺した男を密葬し、後は逃げるように自分たちの生活へと戻っていった。

 週刊紙やワイドショーが父親のDVが原因だと騒いだ事もあり、世間の目は犯人である母親に同情的で、美玲もバイトを辞める事なく、むしろ無心に働いた。ただ、学校だけはどうしても怖くて、行けなかった。そしてもう一つ、辛い現実が彼女を待っていた。

「案外、あたしの荷物って少なかったんだな」

 段ボールにガムテープで封をしながら美玲は呟いた。

「トラック来たよ」

 玄関で大翔の声がする。

「お世話になりました」

 美玲とよく似た中年女性が、玄関にいる大翔に頭を下げている。

「お待たせ、叔母さん」

 美玲は部屋から顔を出し、あの家を出てきた時に使ったスポーツバッグを肩にかけた。そして、今朝まで暮らしていた自分の部屋をじっと見つめた。

 今日、美玲は大翔と暮らしだこの部屋を出る。

 祖父母、大翔、美玲、そして母の姉である叔母との話し合いの結果、美玲はY市の叔母の元で暮らす事になり、同時に独身の叔母と養子縁組の手続きが行われる事になった。この為、姓が“日向”から母親の旧制“杉山(すぎやま)”に変わる事になり、併せて学校も近くの高校に転校する事になった。大翔と共に暮らしだ街と新生活の場所は比較的近いので、バイトだけは辞めないと言い張り、続ける事になった。“あの家”は結局、祖父母の手により売却される事になった。父方の親戚は後に連絡がとれたものの、とっくに縁を切っているので好きにしてくれと、冷たくあしらわれたようだった。
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