RED ROSE
――ごめん。
目を閉じて大きく深呼吸する。それから、まるでそれまでの気持ちを吹っ切るように目を開けると、大翔は止めていた作業を再開した。
更に一週間が過ぎたが、大翔からの連絡は全くなかった。美玲は僅かな可能性に賭けてバイトに精を出していたが、いくら待っても大翔は現れなかった。
――社交辞令だったの?
レジでテイクアウト用のマフィンやデニッシュを詰めながら、美玲は入口の方へ視線を投げた。ちらちらと入口を見るのが、すっかり癖になってしまっていた。
「いらっしゃいませ!」
日曜はオープンと同時に客が列をなす。美玲はレジを先輩に任せ、コーヒーマシンの前に立ち、次々通されてくるオーダーを手際よくこなした。忙しければ忙しい程、頭の中を占める大翔のスペースは少なくなる。と、二つあるレジの一つの列に知った顔を見つけ、美玲は思わず手を止めてしまった。
「こんにちは」
菅原だった。美玲は目礼し、再び手を動かした。
「ごめんね、仕事中に」
「いえ、丁度休憩に入るとこだったんで」
「忙しそうだね」
「日曜はいつもああなんです。寒いと皆、暖かいもの欲しくなるから」
「なるほど」
二人は美玲の休憩時間を利用して、近くのファミレスに場所を移していた。被疑者の娘と担当刑事と言う間柄だが、傍目には判らない。
「実は今日は非番でね」
オーダーしていたコーヒーが運ばれ、菅原はカップを手に取った。
「この近くの何とかってでっかいショッピングセンターに、女房と娘と買い物に来たんだが……まぁその、俺は運転手ってやつで、連れて来ちまえば用なし。後はとにかく暇なもんだから外に出てウロウロしてて、そしたらきみがバイトしてる店が見えて」
「そうだったんですか」
「うちの若い奴らがよく買いに来てるらしいね。県内にいくつか支店があるとかで」
「あ、はい。全国チェーン店なんです」
「そうなのか」