RED ROSE
偽善者


 柿の種を一つつまんで、菅原はため息をついた。

 彼は、自分の刑事としての“読み”を否定したかった。しかし、そう考えれば考える程、胸の引っ掛かりは確信へと変わってゆく。

 大翔、美玲、殺人、DV……。

「考え事ですか?」

 同僚の刑事がそう言ってコーヒーをすする。

「ん? ああ」

 菅原は曖昧に返事し、また柿の種をつまんだ。本当は煙草を吸いたいのだが、禁煙が騒がれる昨今、喫煙スペースはあるものの、何となく落ち着かず、最近は禁煙も兼ねて柿の種で欲求を誤魔化している。

「禁煙、うまくいってるようですね」

 カリカリと柿の種を食べ続ける菅原に、同僚がややからかい口調で笑いかける。

「禁煙に成功する頃には、塩分の取りすぎで病気になってるかもな」

 答えながら菅原は、窓の外に広がるビル群に視線を据えた。

 母親は頑なに夫殺しの動機を“積年の恨み”としか供述しなかった。親指と人差し指で柿の種をつまんだまま、菅原は再び思考にふけった。

 ――積年の恨み。

 正直、頷けない理由ではない。長年、夫から暴力をふるわれ続けた妻と娘。娘は逃げ出し、残された妻はある夜、遂にその蓄積した怒りを爆発させ、発作的に犯行に及んだ。別におかしなところは何もない。母親の、自分自身と娘を守る為の犯行である事で、恐らく間違いはないだろう。しかし――。そこに“朝比奈大翔”が絡んだ事で浮かんできたある考え。

『俺が殺しました』

 あの朝の、あの、曇りのない眼。この思考が徒労に終わってほしいと願いながら、菅原はつまんでいた柿の種に口の中に放った。




 白く息を吐き出しながら、美玲はY署の自動ドアをくぐった。受付で姓名を名乗り、菅原に逢いたいと申し出ると、あっさり刑事課に通された。

「やぁ」

 おどおどした様子で美玲が室内に入ると、予め連絡を受けていたらしい管原が出迎えてくれた。

「ごめんね、来てもらって」

「いえ」

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