RED ROSE
喪失の行方
うららかな春の日差しだった。青空に向かい、嬉しくて両手を広げるような格好で満開の桜が咲き誇り、鳥たちのさえずりが心地よく響く。その美しい風景を描き出している並木道を、大翔と光は手を繋いで歩いていた。
「綺麗だね」
はにかんだ笑顔でそう言う光に、大翔は照れながら頷いた。
「うん」
交際して二年目の春。三年になった大翔は、そろそろ真剣に進路について悩み始めていた。
「大翔はやっぱり就職するの?」
「ん……そっかな、勉強したい事もないし」
少し恥ずかしそうに言う大翔に光が微笑みかける。
「光は? 家、継ぐんだろ?」
「どうかなぁ……。継ぐとか、そんなたいそうなもんでもないけど」
「そんな事ないよ。光ん家のケーキ、うまいって評判じゃん。俺は……好きだよ」
「えっ? そう?」
大翔の言葉に、この春二年になった光が、ぱっと花を咲かせたように目を輝かせる。大翔は頷き、立ち止まって頭上の桜を見上げた。
「俺が好きなのは、この時期限定のチェリータルト」
「大翔ってスイーツ男子だよね、デニッシュとかもよく食べるし」
「うるせーよ」
照れ臭そうに大翔は笑い、繋いでない方の手で光の額を軽く小突いた。春風にふわりと光の髪が舞い上がる。桜の淡いピンクに薄茶色のロングヘアーが、まるで一枚の写真のように、大翔の瞳に焼き付いた。
「じゃ、ここで」
並木道を抜けた所で二人は立ち止まり、見つめ合った。
「ごめんな、今夜は迎えに行けなくて」
繋いだ手を離せない様子で大翔が言うと、光は首を振った。
「大丈夫」
心配ないよと言うように、光が笑う。
「家に着いたら電話しろよ」
「了解」
繋かれていた手が、ゆっくりと離れてゆく。
「明日ね」
光がそう言って、名残惜しそうに大翔を振り返り、さっきまで繋いでいた手を軽く振った。