RED ROSE
「……少しね。今日は大翔くんが迎えに行けないって聞いてたから、バイトが終わる頃、お父さんが車で迎えに行ったのね。でももう出た後で……。車で帰り道を探したんだけどいなくて、携帯にかけてもつながらないし、だから仕方なく先に帰宅して待っていたら……三十分くらいしてからかしら、ようやく玄関のドアが開いて慌てて出たんだけど、まるで避けるように階段を駆け上がちゃって、それきり――」
「俺、今から行きます」
母親からの事情説明を聞いた大翔は、言葉にできない不安に襲われ、思わずそう言っていた。
「今すぐ行きます」
再度そう言って電話を切ると、大翔はバイクにまたがり、光の家へ向け、バイクを発信させた。
不安だった。とても不安だった。光の身に何が起きたのか、具体的には判らなかったし、想像もしたくなかったが、とにかく早く光に逢いたかった。
――くそっ、俺が迎えに行ってたら……。
そんな思いが胸の中で暴れていた。肋骨の内側で、心臓が一拍毎に膨らんでいるような気がした。
光の家に到着した大翔を出迎えたのは、電話で話した母親だった。
「あの、光は……?」
緊張と焦燥で息を乱しながらそう言うと、母親は電話口で洩らしたようなため息をつき、階段の方に視線を向けた。
「さっきからずっと声をかけてるんだけど……」
その言葉に不安が一層強まる。と、その時、大翔の携帯電話がメール着信を知らせる音を発した。
「すみません」
玄関の上がり口に立つ母親に一言声をかけてから、作業服の尻ポケットに入れていた携帯電話を取り出して開く。画面に【Eメール一件受信】と表示されていた。
もしかして? そんな思いで急いでメールを開くと、相手はやはり光だった。安堵と不安がないまぜになった気持ちで本文に目を落とした大翔は次の瞬間、その場に固まった。
【羽ばたいて、大翔】
メールは、そんな短い文で終わっていた。
「光?」
凍りついたような表情で固まる大翔の様子に、母親も携帯の画面を覗き込む。そして母親も、その文面に顔色を変えた。二人の胸に、言葉にできない嫌な感覚が駆け巡る。と、先に動いたのは大翔だった。