RED ROSE
――許すものか。
公園に入って、大翔は更に決意を新たにしていた。なぜなら、公園のある部分に、明らかに争った跡が残っていたからだった。手持ちの証拠等何もなかったが、ここで光が強姦されたのだと、それを見た時、大翔は直感した。
『バイト先の店長がね、馴れ馴れしくて嫌になる。目つきがいやらしいんだよね。なるべく目を合わさないようにしてるけど』
十六になり、駅前のアイスクリームショップでバイトを始めて間もなく、光はそう愚痴をこぼし、大翔を心配させた。
「嫌ならやめろよ。飲食店なら他にもあるんだし」
そうアドバイスした大翔に、光は首をかしげた後で横に振った。
「大丈夫! 社会勉強だと思ってもう少し頑張ってみる」
“社会勉強”と言い切ったあの日の光の言葉が、更なる後悔を生んでいた。無理矢理にでも辞めさせれば良かったと、大翔はまた、自分を責めた。
結果的に凌辱され、自殺したじゃないか。それのどこが、社会勉強だと言うのか。もちろん、光の言った意味は理解できる。これから飛び立つ社会には、きっといろんな試練や困難が待ち構えている。笹原のセクハラはその第一歩。それに耐えられないようじゃ、一人前の社会人にはなれない。光が言いたかったのはそういう事なのだ。しかし、大翔には光の死を“社会勉強”等とは、到底思えなかった。レベルが違いすぎる。
光はもう“いない”のだ。二度と生きては逢えない。キスをする事も、セックスをする事も、手を繋いで帰る事も笑う事も、食事をする事も一緒に眠る事ももう、彼女とは二度とできないのだ。だから、許さない。許さない――。
アスファルトを蹴る足音がし、大翔ははっとした。茂みの中からそっと覗くと、笹原がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。公園内を通るのが、自宅までの近道だという事も、大翔はちゃんと知っていた。だから、この場所を選んだのだ。
笹原が茂みの方へ近付いてくる。大翔は黒のニット帽を目深に被ると、革手袋にスタンガンを握り締め、茂みを飛び出し、背後から笹原に近付いて素早く彼の首に右腕を回した。
「騒ぐな」
首筋にスタンガンを押し付け、低く唸るように告げると、予想通り、笹原は抵抗した。しかし、武道の心得がある大翔に素人が勝てるはずもなく、笹原はあっさりスタンガンで気絶し、そのまま彼自身の自宅へと運ばれた。
星がとても綺麗な、春の夜空だった。