RED ROSE
目覚めた野獣


「起きろ」

 聞き覚えのある声で目覚めた笹原は、一瞬、自分がどこにいるのか判らなかった。

「充!」

 いまいちぼんやりとする意識の中、突然女の声がし、はっとする。

「充!」

 また、声がした。なぜか、自宅のリビングの床に寝転がっている。しかも、さっきから体を動かそうとしているがなぜか動かない。怪訝な面持ちで首を動かし、自分の体を確認すると、何と、縛られていた。

「わっ! 何だ!」

 頓狂な声をあげた途端、腹に衝撃が走り、笹原は呻いた。女の悲鳴が聞こえる。妻・深雪(みゆき)の声だと気付き、笹原はしかめっ面のまま、声の方を見た。そして、愕然とした。

「深雪!」

 深雪が、柱に縛り付けられ、泣いていた。そして目の前には、見知った顔の男が立っていた。

「お前は……!」

 黒のニット帽を被って冷ややかに自分を見下ろす男に、笹原は戦慄を覚えた。

「確か……彼女の……」

「彼女?」

 笹原の言葉に男が冷酷な笑みを見せる。

「俺の女に、馴れ馴れしい口利くんじゃねーよ」

 その言葉で室内の空気が張りつめる。笹原は男の名前を思い出した。

「あんた、確か、朝比奈……」

「そう」

 相変わらず冷たい瞳で男が頷く。

「朝比奈大翔。あんたがレイプして殺した、元木(もとき)光の恋人。……知ってるよな?」

 朝比奈大翔と名乗った男の言葉に笹原は絶句した。思わず妻を見ると、深雪が目を見開き、笹原を見つめていた。

「奥さん、あんたも知ってるよな? この近所で女子高生が首吊り自殺したってニュース。……ここにいるあんたの旦那が犯人なんだよ」

「嘘……」

 大翔の言葉に殆ど反射的に深雪が反応する。

「嘘じゃない」

 大翔はそう言うと、やはり冷たく笹原を見下ろした。
「レイプされた時に光が身に付けていた下着と制服を警察が押収したし、精液も検出された。直に警察が事情を訊きに来るはずだ」
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