RED ROSE
そう言うと、大翔は縛っていたロープを解いて深雪を解放し、笹原の前に放り出して馬乗りになった。
「あんたの旦那が光に何をしたか、教えてやる」
「嫌……」
「やめろ!」
怒気を含んだ笹原の声が飛んだが、縛られた状態でのそれには全く効力はない。案の定、大翔は意に介さぬ様子で、組み敷いた深雪のシャツを両手で派手に引き裂いた。
「いやぁ!」
夫の目の前でシャツを裂かれた深雪が甲高い声をあげる。抵抗の中、大翔によりブラジャーも剥ぎとられ、豊かな彼女の胸が露になった。大翔は不気味に唇の端をあげながら、そんな深雪の頬を打った。
「やめろ! ちくしょう! この、人でなし!」
声を裏返しながら怒鳴り、憤怒し、床の上で芋虫のように笹原がもがく。しかし、手足、胴体を縛られた今の笹原には、目の前で凌辱されてゆく妻を助ける術はなかった。
「離せ! 深雪!」
「充!」
明かりのないリビングに、笹原と深雪の叫び声だけが響く。と、深雪の服を引き裂いていた大翔がぎらついた眼で、笹原を睨み付けた。
「光も、今のあんたと同じ事を叫んだんじゃないのか?」
瞬間、笹原の脳裏に、記憶が甦った。
『やめて! 離して! いやぁ!』
あの夜の公園で、確かに耳にした悲鳴が甦った。
『誰が助けて! 嫌っ! いやぁっ! 大翔ぉ!』
その時はただ光の、いや、若い少女の肉体が欲しくて堪らず、色情に乗っ取られていて気にならなかったが、組み敷いた腕の下で確かに光は悲鳴をあげていた。抵抗していた。必死に助けを求めていた。しかし笹原にはそんな光景すら快感に変換され、高揚していた。
「頼む!」
大翔の指が深雪のショーツを剥ぎ取り、必要以上に足を広げる。その様子に笹原は堪らず叫んだ。
「もうやめてくれ! お願いだやめてくれ! 俺が悪かった! 警察でもどこでも突き出してくれて構わないから、深雪を離してくれ!」
目の前で妻が犯される。それは内蔵をえぐられるような痛みを笹原に与えていた。これは悪夢だ! 悪夢なら早く覚めてくれ! 深雪は大切な妻だ! しかし、それと同じ事を自分は犯した。目の前にいるこの、朝比奈という男の恋人を強姦し、自殺に追いやったのだ。笹原はこの時になってようやく、自分の犯した罪の深さを知った。こんな状況にならなければ気付かない自分の愚かさを、強烈な仕打ちで思い知らされたのだ。
「頼む……」
笹原の瞳から涙が溢れ、フローリングの床を濡らす。いつの間にか、深雪は抵抗をやめ、彼女を乱暴に扱っていた大翔の手も止まっていた。
「……できねえ」