RED ROSE


「まさか……」

 深雪が声をあげる中、笹原は動かぬ物的証拠の存在を突き付けられ、頭が真っ白になった。そして思わず「俺は悪くない! 彼女が……」と口走った。

「光から誘った? 見苦しい言い訳はやめな」

 その言葉と共に何かが空を切る音がし、笹原は呻いた。大翔がまた、彼の腹部を蹴りつけたのだ。

「奥さん、あんたの旦那は強姦プレイが好きらしーな。あんたも旦那に乱暴されて悦ぶ質か?」

「違う!」侮辱され、深雪が激しく否定する。彼女にそんな願望等ない事は、笹原が一番よく知っていた。

「充はそんな事しない!」

「でも実際に、俺の彼女はそこの公園に連れ込まれてレイプされたんだ。恐らく下着と服に付着した泥で、場所も特定されてるはずだ。しかもさっき俺は、現場で争った痕跡も見つけたよ」

「ま、魔が差したんだ!」完璧なまでの証拠を突き付けられ、笹原は遂に観念し、そう口にした。

「すまない! まさか彼女が自殺するなんて……」

「黙れ!」

 笹原の言葉に激昂した大翔が、再度笹原の腹を蹴りつけた。

「まさか? ふざけんじゃね~よ!」

 もう一発腹に強烈な蹴りをくらい、笹原は嘔吐した。と、一瞬静まり返った室内に、深雪の声が響いた。

「あなたが、犯したのね……」

 その静かで抑揚のない声に、大翔も笹原も息を呑む。

「そのニュースなら……知ってる」深雪は呆然とした様子で、ゆっくり首を動かし、大翔の方を向いた。

「あなたの彼女を、充が……」

「深雪……」

 妻の様子に笹原は焦った。卑怯な彼は、自分の犯した罪をこの期に及んでまだ、妻に知られたくなかった。

「深雪を離せ!」

 痛みを堪えながら見苦しく笹原は叫んだ。「深雪は関係ないだろう!」

「そうはいかない」

 しかし、笹原の見苦しい懇願は、あっさり大翔に拒否された。

「あんたにも、思い知ってもらう」

 冷たく言い放たれた大翔の言葉に、笹原が目を剥く。深雪も怯えた顔で大翔を見上げた。

「やめて……」

 大翔の瞳には感情が全く感じられない。まるで厚い氷に空けられた穴のように、ぽっかりと暗く、そこに存在している。その、奈落の底のような瞳に、笹原も深雪も恐怖した。

「好きなだけ、泣き叫べ」
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