RED ROSE


 二本目の瓶が空になる。深雪はまた次の瓶を取り、栓を抜いてバシャバシャとまく。笹原は身をよじりながら、必死に妻に近付いた。

「やめるんだ深雪!」

「あなたが悪いんじゃない!」

 気休めばかり口にする、いや、それしか口にできない笹原を蔑(さげす)むように見下ろして深雪が叫んだ。

「全部あなたが悪いのよ!」

 もう、言葉が出なかった。やがて、ワインや焼酎の瓶が全て空になり、深雪はサラダ油をまき始めた。リビングの床にはとっぷりと液体が溜まり、異臭を放ちながら、どうにか身体を起こした笹原の足元を濡らした。

「……後ろ指さされながら生きるなんて、まっぴらよ」

 しゅぽっと音がし、深雪の手に握られたライターが、炎を灯した。

「“死が二人を別つまで”――笑っちゃうわね」

 それが、深雪の最期の言葉だった。ライターが、彼女の手から落ちる。笹原が最期に見た景色は、オレンジ色に揺らめく炎だった――。




 ドーンという爆発音と熱風を、大翔はあの公園で体感した。驚いて振り向くと、紅い火柱が、夜空を焦がしているのが見えた――。
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