RED ROSE
溶け合う心


 あの二人がどうなろうと構わない。確かにそう思っていた。当初の予定では笹原の妻もちゃんと犯すはずだった。しかし、恐怖に引きつる女の表情を見た瞬間、萎えた。単純にその顔が、光とかぶったからだ。気が晴れた訳ではなかったが、萎えた瞬間、急に虚しさにとらわれ、あの家を後にした。その後、夫婦がどんな会話を交わし、どんな結論を出すのかなんて、もうどうでもよかった。何をどうしても、光は戻らない。その現実を受け入れるしかない。哀しみと痛みの中、あの公園まで戻り、光が犯されたと思われる場所でじっと立ちすくんでいた。そして、あの家が燃え上がるのを目撃したのだった。

 何が起こったのか、なぜ燃えているのか、すぐには理解できなかった。ただ、笹原を縛ったまま出たので、中にいる二人の安否が気になった。

 夜空に立ち上る紅い炎。それがまるで血の色に見え、大翔は思わず固唾を飲んだ。

 ――まさか……。

 誰かの通報により駆けつけた消防車と救急車が、サイレンを響かせながら公園脇の道を走り抜けて行く。大翔は恐る恐る歩を進め、来た道を戻るように、燃え盛るあの家へと向かった。この火事は、二人の内のどちらかによる無理心中なのだと、炎の紅さに気付いた瞬間、直感していた。そして同時に、その“きっかけ”を作ったのが自分である事にも、気付いていた。

 小さな爆発だろうか、熱膨張によるものだろうか、パンという軽い音と共に二階の窓が割れ、炎が吹き出すのが見えた。




 翌朝早く、大翔は身なりを整え、自宅を出た。夕べは当然ながら眠れず、早朝のニュースで、あの火事で二人の人間が焼死した事を確認した。死亡したのは、連絡のとれなくなっている笹原とその妻と思われると、ニュースは報じていた。

 自分がどんな罪に問われるのかは全く判らなかったが、覚悟はできていた。元より覚悟の上で、全ての行動をおこしたと言った方が正しかった。

 歩いて警察に向かう途中、光の家の前に差し掛かり、大翔は足を止め、深々と頭を下げた。そして彼は再び歩を進め、警察署へと向かった。




 ガタンと音をたてて、自動販売機の受け取り口にコーヒーが落ちる。最近、愛飲しているサントリーボスを取りだし、菅原はその場でプルトップを引いた。

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