RED ROSE
――うまい。
素直にそう思う。徹夜明けなので、今朝はブラックをチョイスした。
それにしても参ったな。更に一口あおって、菅原は嘆息した。笹原充が昨夜、妻と共に自宅で焼死したからだった。
先日、強姦され、直後に自宅で首吊り自殺した女子高生の遺体と衣服から検出された精液のDNA鑑定で浮かび上がった、被疑者と思わしき人物。笹原充。
被害者のバイト先の店長で、日頃から被害者にセクハラしていたと言う情報も聞き込みで得ていた。
限りなくクロに近い。いや、菅原個人的には完璧にクロと踏んでいて、今朝にでも任意の事情聴取をするつもりでいた矢先の焼死。これがため息をつかずして何としよう。
被害者である女子高生の家族の為にも、菅原は犯人を逮捕したかった。そして、恋人であり、遺体の第一発見者となってしまった彼の為にも――。
――朝比奈……と言ったかな。
サントリーボスの缶を見つめながら、菅原は遺体の第一発見者となった少年の姿を思い出した。
すらりと上背のある少年だった。隙のない身のこなしで、鋼のように鍛えられた肉体を作業服で隠していた。髪は茶色に染めていたが、丁寧な言葉遣いや立ち居振舞いが、しつけの良さを表していた。確か、父親が整備工場を営んでいて、手伝っていると言っていた。亡くなった女子高生とは二年の付き合いで、両家公認の爽やかな交際だったらしい。
「かわいそうに」
思わずそんな言葉が口をついて出た。菅原にも娘がいる。まだ中学生になったばかりだが、もし、あの子に彼ができたら、あの少年みたいなら嬉しい。しかし、今の少年に、そんな思いは不謹慎だ。彼は今、失意のどん底なのだ。
あの女子高生は強姦されていた。刑事である前に父親として、いや、人間として犯人は許せない。だからこそ、恐らくクロで間違いないだろう笹原を逮捕したかった。
「菅原さん」突然名前を呼ばれ、感慨にふけっていた菅原は派手に肩を揺らした。
「お客さんです」
後輩の新人刑事が、遠慮がちに顔を覗かせ、菅原を呼んでいる。
「客?」菅原はサントリーボスの空き缶を自動販売機横のくずかごに放り込むと、後輩に近付いた。
「誰だ」
「あ……あの、それが……」
菅原の問いに、後輩がもじもじと後ろを見る。訝しげに菅原もそちらへ視線を投げると、そこには彼が立っていた。先程まで考えていた少年。やけに力強い瞳で菅原を見ている。
「やぁ」
何と言っていいか判らず、菅原はそう声をかけた。
「朝比奈くん、だったね」
「はい」
制服だろうか、チェックのズボンに紺のブレザーを重ね、ネクタイをきっちり絞めている。とても好印象な立ち姿だ。と、菅原を真っ直ぐ見据え、少年が口を開いた。
「昨夜の火事で亡くなった笹原充は、俺が殺しました」
「――結局俺は、逮捕されなかった」