秘密

*その2*

月曜日の朝は億劫だ。

ナナは朝礼と言うものが大の苦手だった。

学生時代にやたらと倒れたりしていいイメージがない。

今は倒れたりはしないものの。

みんなの前に紳士然として立ち、ツラツラと報告業務をしている課長を見ると、何故かムカムカするのだ。

何でかな。この人のこのヘラヘラした態度が癪に障る。

「では今週も頑張って働きましょう。」

朝礼終わりに必ず言うように義務付けられた言葉を課長が言うと、解散になる。

だが、その言葉が薄っぺらく感じるのは個人的主観か。

「おはよー、ナナ。」

デスクにつくと、同期の山本 彩が話しかけて来た。


「おはよ、彩。なんか朝から気合い入ってるね。今日はデート?」


バッチリメイクにバッチリヘア。


明らかに勝負!…と、言った感じだ。


「わかるぅ?ま、今日は月曜日だし食事に行くだけなんだけどね〜。」



楽しそうな彩。


いいね。あたしには何にもない。



苦笑いを浮かべて前を見ると。

ーまただ。ー



課長と目が合う。
なんで見てるのかな。彩との会話は小声だ。煩い筈が無い。


逸らされることなく、見つめて来る黒い瞳。

眉間にシワがよる。


…と、課長が視線を逸らした。



ーいつもこうやって、あたしが眉間にシワを寄せたら逸らすんだよね。何なんだろ。ー



話しかけられるわけでなし。

何かナナに問題点があるわけでなし。


意味のわからないその課長の行動に毎回頭を抱えている。


◇◇◇◇◇


つい、目が追う。

意識はしていない。


何故なのか、理由も定かじゃない。


でも、彼女の行動を追う自分がいる。


先週末、山本が合コンに誘っていた。
癪に障る気分になったが、すぐに参加を断った彼女を見て安心した。


やっぱり…好きなのか?



自分の感情がわからない。


誰かを追う事などした経験がなかった。

いつも好きです、付き合ってくださいと言われる方で自分から誰かに好きだと告白したことなんてなかった。


ーこんなに好きなのに、課長は私のこと好きじゃないんですね。ー



そう言ったのは前の彼女だ。

この会社の受付け嬢。綺麗な子だった。
2ヶ月程付き合ったが向こうから別れを切り出された。


好きとか愛してるとか言ったら嬉しそうにしていたくせに、何なんだ。


ー課長の言葉には感情が無いです。辛いからもうやめにしましょう。ー


なんて言われてしまった。



そしてまた彼女を目で追う毎日が始まる。


◇◇◇◇◇
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