秘密

*その3*

合コンって何が楽しいのかわからない。


…というと、彩は「ナナの言い分がわかんない」と言う。


だって下心丸出しのバカ男ばかりじゃん。

金もってます、とか、イケメンです、とか。
中身は薄っぺらいのにさ。


そういう人は信用出来ない。


どうせ遊びでしかないんだから。


あたしはちゃんとあたしを見てくれる人じゃなきゃ、嫌だ。

「ね、ナナ。ご飯食べに行くだけだから!ね、お願い‼」


今朝、バッチリメイクであんなことを言っていた彩は、その食事にあたしを誘う約束をしていたらしく。
ひたすら“お願い”を連発していた。


「やだって。合コンなんて勘弁だから。他の子誘ったら?」

なかなか諦めてくれない彩にため息交じりに伝えるが。


「だってー、向こうがナナがいいっていうんだもん!だから行こうよ!」



…なんであたしなの?
愛想もくそも無い、つまんない女なのに。


「それでもごめん。あたしは嫌。」
ハッキリと拒絶して彩に背中を向けたら、目の前にいた課長と視線がぶつかった。

お互い逸らさないで見つめ合う。


ふいっといつものように課長の方が視線を逸らした。

「ナナ〜、ダメなの〜?」

…まだ言うか。

「彩、あたしはね、上っ面の付き合いとか出来ないの。悪いけど他を当たって。これ以上言うとキレるよ?」

デスクに戻り再びパソコン画面を見入る。

終業時間は過ぎていたけど、残業決定だった。
そんな時に彩のしつこい誘いがあって、イライラしていた。


ーあぁもう!片付かないし!ー


そんな時。ピロリン、とパソコンからメール着信を知らせる音がした。


社内メールだから、誰からだろ?


クリックして開くと、課長からだった。

ーえ?ー


件名:フォローしようか?
本文:断りきれないなら仕事を回そうか?井村



ガバッと顔を上げた先に見えた課長の顔。

笑うでもなく怒るでもなくただこちらを見ている無表情な顔。



なおもしつこく誘い続ける彩にかなりウンザリしていたので。
べつに課長に頼りたかった訳じゃない。



件名:ありがとうございます。
本文:それは本当の仕事を回して来られるんでしょうか?ダミーですか?早瀬


返信すると僅か数秒でまた返信がくる。



件名:どちらでも。
本文:何だったら俺が君を食事に誘おうか? 井村



は?なんで課長があたしを誘うのよ。
馬鹿にしてるんじゃない?


件名:食事には行きません。
本文:仕事を回してください、お願いします。早瀬


メールのやりとりを済ませ、彩からの呪縛のようなお誘いを完璧に断ることが出来たあたしは、同じ様に残業していた課長のところへ向かった。
手にはコーヒーを持って。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



目の前で彼女が困っていた。

またも山本が強引に合コンへ誘っている。全く、いい加減にしろと言いたいのを堪えるのに必死だ。

…何故なんだろう。

彼女が好きと言うわけでもないのに、何故か気になって仕方ない。


困り顔の彼女を助けたくて社内メールを送ってみた。

案の定断りきれなかった彼女が助けを求めて来た。
ついでに食事に誘ってみる。

…あっさりと断られた。

ま、そんなもんだ。

仕事を回してなんとか山本からの誘いを断った彼女はパソコンとひたすら睨めっこを始める。


そして俺も仕事をしながら彼女を覗き見る残業を始めた。



◇◇◇◇◇
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