週末シンデレラ番外編SS集


「見たところ……俺の好きなものばかりが入っている。詩織も食べるのに……それに、きみが作ってくれたのに。……なんだか、申し訳ない」
「も、申し訳ないって……」

そんなひと言をもらうために、お弁当を作ったわけじゃないのに……。

なんだか悲しくなってくる。

征一郎さんはわたしから視線をフッと逸らすと、またため息をついた。

「一緒に花見を楽しみたいと思ったのに、これじゃ、俺ばかりがいい思いをしている」
「え……いい思い、ですか?」
「ああ、大好きな詩織の側で、大好きな詩織の手作り弁当を食べて、しかも全部大好きなものばかりで……」
「っ、だ、大好きばかり言われると……て、照れます」
「あっ、い、いや……悪い、思っていたことがそのまま漏れた」
「お、思っていたことって……!」

桜の木の下、ふたりで頬を桜色に……いや、それ以上に赤く染めてしまう。

征一郎さんは姿勢を正すと、コホンと咳払いをした。

「とにかく、平等に楽しみたいと思っている」

平等に楽しみたい……そう言われると堅苦しいし変な感じだけど、彼からの気持ちはちゃんと伝わってくるから不思議だ。

まだ難しそうな顔をしている征一郎さんに、わたしはにっこりと笑いかけた。

「平等に……っていうなら、征一郎さんに美味しく食べてもらえたら平等ですよ。わたしは作っているときに、充分楽しませてもらいましたから」
「作っているときに? どういうことかな?」
「それは……」

征一郎さんの食べたときの反応を妄想して……なんて、言うのはちょっと恥ずかしい。

「……秘密です」
「えっ? 秘密……い、言えないことか? 待ってくれ、俺はどうしたら……」
「どうもしなくていいですよ。美味しく食べてもらえればそれで」

そして、その「美味しい」と言って食べる姿も楽しませてもらう。

……ごめんなさい。平等じゃなくて、わたしばかり楽しませてもらってます。

「……まあ、いいか。今夜、たっぷり聞かせてもらうよ」
「えっ!? せ、征一郎さん……!?」

眼鏡の奥の瞳を艶っぽく細める征一郎さんに、わたしの胸は大きく跳ね上がるのだった。




*2017.4.13*
久しぶりにSSを更新してみました。
お花見編……のはずが、ただのピクニックに(笑)
少しでも楽しんでいただけますと嬉しいです。

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