等心大〜tou・sin・dai〜
一歩一歩
『彩の親御さんには
 週末に挨拶行くから』

『一応彩からも報告はしといて』





仕事中なのに
今朝の友貴とのやりとりを
思い出しては
顔がニヤケる。





“結婚”




今までは
近いようで遠い存在だった。
でも今はリアルに感じられる。
現実そのものになろうとしてる。





「西村さん、
 なんかいいことでもあった?」

「えっ…いえ、別にっ」



さっきから
職場のみんなに
次々と同じことを聞かれてる。


意外と私って
顔に出やすいタイプかもしれない。




――西村さん、じゃ
    なくなるんだなぁ。



胸の奥がくすぐったい。

私はひとりっこだけど
結婚したら友貴の苗字になる。
父に言ってはいないけど
多分反対はしないだろう。


“高原 彩”



――悪くない。


何度も頭の中で
繰り返してみると
西村よりもしっくりくる。
ホント私って単純だ。




「西村さ〜ん
 仕事してぇ〜」

笑いながら
からかうように
沢木さんが言った。


「あっ…すみませんっ」

「あはは、ジョーダンよ。
 西村さん、心ここにあらずって
 感じだったから」


つい顔がニヤケてしまう。

まだ職場には
言いたくないのに。
体は正直だ。
…って体じゃなくて顔か。
まぁどっちでもいいや。




「もしかして
 彼氏となんかあった?」


うっ。
するどい。



「まぁ…そんなとこです…」

声が弾んでしまわないように
ゆっくりと答えた。
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