DECIMATION~選別の贄~
東谷はゆったりとした口調を保ちながら意識的に、菜月の中の無意識に向けて話しかける。

「あの凄惨な事件を目の当たりにしてからもう一ヶ月が経った。君は一時の間、言葉を失い、全ての関係から遠退いた場所で横たわっていたね」

低い声がこだましそうなほどの静寂を通り抜けていく。

小さな観葉植物の緑が今の菜月の視線の拠り所となっている。

「人は偉大だ。

動物が持ち得ない心を持ち、それが故に高等で、それが故に時に哀れな存在にもなる。

だがしかし人は偉大だ。
どれほどの厄災に見舞われても肩を寄せあい立ち上がり、どれほどの困難にぶつかろうとも何時しか道を切り開く。

そんな人の可能性を君も持っていることに気がついているかな?」

緑の葉が静かにそびえる。

エアコンの風では揺れもせず、か弱い幹に似合わぬ立ち姿で。

声をあまり発しなくなったからだろう、菜月は風邪の時のような掠れた声で言葉にする。

「よく、わからないです」

「うん、君は正直で宜しい」

そう言って笑う東谷から菜月は意識的に目をそらすのだった。

そういった様子を菜月が見せると、東谷はその時点でカウンセリングを打ち切る。

「じゃあ、今日はこのくらいにしよう。

また二週間後においで。勿論……それまでに話がしたくなったら気軽に顔を見せると良い」

「ありがとうございました」

ほとんど聞こえない声を最後に置いて、菜月はその部屋を出るのだった。


残った東谷は、今しがた菜月が描いた樹木の絵をまたまじまじと眺めて微笑んだ。

そしてそれを事務用のデスクの上に並べたファイルの1つを手に取り、しまう。

そこにはこれまでに菜月が描いた樹木の絵が全て日付や作業時間、作業中の様子などが細かく記されたメモと共に挟まれていた。

「彼女はいったどんな葉を再び芽吹かせるのだろうかね」

閉じたファイルを元の位置に置く。

東谷はガラス越しに外の大通りを駆け抜ける人々を眺めていた。


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