ロリポップ
 そもそも何で上しか着てないわけ?
 普通、上下着るでしょ?普通・・・。
 ・・・そう、私が普通じゃなかったって事なのよ。
 昨日、恩田君はちゃんと上下で出してくれたらしい。
 さっき、何ではいてないの?とちょっと情けなくなって、泣きそうになりながら聞いたら、上下出してくれていたスウェットの上だけ着た時点で、私の電池が切れていたらしい。
 そこは履こうよ、私。
 確かに家では履かない事、結構あるけど・・・あるけど!仮にも人様の家では履こうよ・・・。
 いや、むしろ、履け!!!
 益々、うな垂れる私に寝室から昨日履かなかったスウェットの下を持ってきてくれた恩田君は、本当、すごくいい子なんだと思う。
 
 こんな面倒くさい会社の先輩の面倒を見なくちゃならないのに、嫌な顔もしないで笑ってくれる。
 
 洗面台に映る自分の顔を見て、はあ~と溜息が出る。
 
 飲みすぎてむくんだ顔にスッピンって・・・ちょっとしたホラーだよ。
 

 結構な醜態をさらしたのに、今更取り繕っても仕方ないか。

 洗面所を後にして、キッチンの方に行くとパンの焼ける匂いがしてくる。
 益々、お腹が空いて節操ののない私のお腹は催促をするようにグウグウと鳴っていた。


 私に気がついた恩田君は、お皿をテーブルに置くと「どうぞ」と向かいの椅子を進めてくれた。

 テーブルの上にはさっき入れてくれたコーヒーがカフェオレに変わっていた。


「あ、カフェオレ?」


「はい、逢沢さん、確か社員食堂でよくカフェオレ頼んでたなって思い出して。・・・あ、ちょっと、気持ち悪かったですね、今の」


「ん?何で?」


「ストーカーっぽい発言だったなと思って」



 ははは・・・・言われなかったら気づかなかったのに。
 


「僕も会社に居るときは社員食堂、利用するんです。営業なので外の方が多いですけどね」



 そう言いながら、焼きたてのクロワッサンを食べ始める恩田君は相変わらずおっとりとした口調。
 バターの香りがキッチンに広がる。
 
 私が洗面所にいた数分の間に、朝ごはんは完成されていた。
 焼きたてのクロワッサン(冷凍のクロワッサンらしいけど、かなり美味しい)にベーコンエッグと私にはカフェオレ、恩田君はコーヒーで。
 家で食べるのも似たようなものなのに、美味しく感じるのは一緒に食べる人が居るからなのかもしれないな。
  
 心の奥が相変わらずチクリと痛かったけれど、恩田君の入れてくれたカフェオレが体を温めてくれた。
 少し甘くて、少し苦い。
 そんなカフェオレは私の心の中のようだった。




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