ロリポップ
 いつも通りの朝。
 違うのは、自動販売機の横で私を待ってる恩田君がいる事。



 「おはよう」



 「おはようございます」



 濃紺の細身のスーツに身を包んだ恩田君はやっぱりいつもの口調で、朝から倒れそうなほどの爽やかさ。
 サラサラの栗色の髪の毛が今日も綺麗だ。



 「これ・・・」



 そう言って差し出した私の腕時計。
 細めの紅色の革ベルトがお気に入りの小さな腕時計が、恩田君の大きな手のひらに乗せられるとまるで玩具みたい。



「ごめんね、洗面所借りた時にはずしたんだった。何か足りないなって思ったけど、これだったんだね~」


 渡された時計を腕に回しながら、我ながら呆れるわ、と心の中で盛大に溜息を吐く。
 昨日、言われるまで時計が無い事にすら気が付いてなかった私。
 あってもなくても一緒って事なのかも・・・。
 お気に入りって言っといてそんな扱いってあり?って、腕時計に口があったら言われてるな。

 

「似合いますね、その色。逢沢さんの白い肌に凄く似合います」


 
「本当?実はこの色に一目ぼれして買ったんだよね、この時計」



 似合うと言われればやっぱり嬉しい。
 恩田君の腕には男の人らしい少し大きめの時計がしてあった。
 スーツの袖でよく見えないけれど。



「恩田ー」



 出社してきた恩田君の同じ課の人らしき男の人が恩田君に声を掛ける。
 



「あっ・・・逢沢さん、また」



「うん、ありがとね」



 ペコリと頭を下げて、恩田君はさっき呼ばれた人のほうへと小走りで去って行く。
 その後姿を眺めながら、腕時計を渡してくれた恩田君の手の大きさに、あんなにふわふわした感じなのに、やっぱり「男」なんだなぁとか思う。
 私の細い手首とは違う、細いけれどもしっかりとした腕に巻かれた腕時計とかに。



「音羽」


 振り返ると友華が立っていた。



「あ、友華。おはよう」



「おはよう。なんで恩田君といたの?」



 恩田君と話していたのはほんの2・3分だったのに、友華はしっかりとそれを見ていた。
 本当、そう言うのは目敏いよね~・・・。




「時計を返してくれただけ」



「時計?」



「うん、この前、恩田君の部屋に忘れてたから・・・・・」



 そこまで言って気が付いた。
 友華には恩田君の部屋に泊まったこと、言ってないんだった。
 しまった・・・私、今、思いっきり、恩田君の部屋に忘れたって、言ったよね・・・?
 言ったよね・・・・・。
 


「ふ~ん、恩田君の部屋にね~」




 それ以上何も言わず、エレベーターに向かう友華を早足で追いかける。
 ぎゅうぎゅうに乗り込んだエレベーターの中で、友華の視線に射殺されそうになる。
 私の方が先に降りるエレベーター。
 けれど、背後からビシビシと刺さる視線。
 ごめんなさい・・・。  
 でも、ふ~んって色々の言葉を含んだそのふ~ん、昨日も聞いたんですけど。
 気になるから、そのふ~んて言うのやめてもらえませんか・・・。


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